青春のエキサイトメント もうすでにあいみょんサウンドが鳴っている

もうすでにあいみょんサウンドが鳴っている
インディーズから2年後のメジャーデビュー。その間はどんな生活をしていたのだろうかなど感じさせない堂々としたメジャーデビュー。決まった時はあっけらかんと事務所から言われたとインタビューで答えていたけど、まず1曲目から溢れんばかりの思いが詰まっている。

自分が憧れていて自分を変えた、数年前に墓の中に入ったロックスター、メジャーを辞めたSSW、姿を見ないスーパーエンターテイナー、ブタ箱ん中にナイスガイなアクターに復活を促すメッセージから始まる「憧れてきたんだ」。確かなストロークのあいみょんの生ギターとシャウトしながらどこか冷静な歌声。途中から入るドラムだけで、彼らへの思いをぶつけてくる。この出会い頭の衝撃は2曲目にさらに大きなものになる。

TVで見た飛び降り自殺した少女の話。現場の生々しい描写と「生きて生きていたんだ」と肯定しながらも悲しくなって泣いてしまった心。それでも、最後のサヨナラは自分に叫んだろうと。この「生きていたんだ」をメジャーデビューシングルに選んだところにある種の凄みを感じた。精一杯勇気を振り絞って空を飛んだ彼女は鳥になって雲をつかんで、風になって遥か遠くに希望を抱いて飛んだ。21世紀の「ひこうき雲」でもあるようだけれども、もっと乾いた感情だと思う。

往年の森高サウンドのようなイントロでゆったりと始まる「君はロックを聴かない」は、この曲ができたおかげでSSWとしてやっていける手応えを感じたと。誰にでもある好きな子に、自分の好きなものを好きになって欲しい感覚が蘇ってくる名曲。ブレイクで生ギターだけのサビを歌うパターンの始まりだと思うけど、コンサートではみんながこの部分を歌う。思わずグッとくる瞬間だ。

全てを知り尽くして尻に敷いてしまいたい、遠回しすぎるセリフばっかでセルフな恋。韻を踏んだ歌詞、マイナー調のファンク。4曲目で表情を変えてくる「マトリョーシカ」の切なさ。

次の「ふたりの世界」の、いってきますのキス、おかえりなさいのハグ、おやすみのキス、まだ眠たくないのセックス(つい最近のインスタライブのはにかみがかわいすぎる)。初めのフレーズだけで二人の生活具合と心持ちを見事に表している。リアリティーとフィクションの間を漂う世界観。二人で見に行ったライオンの赤ちゃん、というフレーズの乾いた感覚。恋愛中のうれしさよりと不安が入り混じる気持ちを思い浮かべてしまう。死んだ後に天才だったなんて死んでも言われたくないもんな、と歌われる「いつまでも」は、ブレイク前の気持ちを忘れないようにしたいと静かに語りかける。

大好きだったオザケンの「今夜はブギー・バックのオマージュのようなリズムと言葉使い。男の子の切なさ、部屋で待っているまでのドキドキや憂い。別れたばっかりなのにもうすぐに会いたくなる。まるでグローバー・ワシントンの「Just The Two Of Love」的なコード進行は別に意識しなくてできたものらしい。まじで僕に愛される気があんの?とちょっと怒ってみせるけど、やっぱり切ない。そして、「風のささやき」が耳障りになってしまう。今度は、どこかへ行って気晴らしをしようと「RING DING」。

「ジェニファー」という言葉を聞くと、中学生の時に大好きだったドノヴァンの名作「Jennifer Juniper」を思い出す。バランスのとれない二人、バランスのとれない体。もう一度会えるのかな。

「漂白」とはインタビューでは「きれいなものをきれいなもので洗い流す」「人との出会いと別れを思い出してほしい」と。誰でも通過する痛みや見えない未来、行き先のない恋愛。詩とメロディーが同時進行で、今まで聴いてきた音楽の蓄積から湧き出てくるなんて、いつ聴いてもなんかスゴイものを知ってしまったなぁ…と驚きの連続だ。そして、何よりも親密な声や表情、時には大胆な歌詞にぞっこんマイっているんだ❤️

■シングル
生きていたんだよな 2016.11.30
愛を伝えたいんだ 2017.5.3
君はロックを聴かない 2017.8.2

■アルバム 2017.9.13