空に星があるように 小説 荒木一郎 様々なジャンルで草分け的な存在だった波乱万丈な25歳までの姿

甘酸っぱくて切ない歌声が生まれた瞬間
TVの聡明期には俳優デビュー、モダンジャズのドラマー時代から作詞作曲を始める。当時、作詞家、作曲家が分業化されていたため、ある種シンガー・ソングライターの草分け的な存在だった。デビュー曲「空に星があるように」が大ヒット、続く「今夜は踊ろう」「いとしのマックス」も大ヒット。1966〜1967年までは名曲揃いで、うっすらと私もTVで歌う姿を覚えている。

小説仕立てにしているが、高校時代から25歳までの波瀾万丈な姿を軽快なタッチでまとめている。今のように全てがシステム化されているわけではなく、やることなすこと暗中模索。つまらないしがらみに左右されない行動が小気味いい。名曲が生まれた瞬間もスリリングだ。荒木一郎を取り巻く男女も実名で登場するから60年代の芸能秘話としても面白い。小林信彦さんの『夢の砦』はほぼ同年代の出版業界の話、こちらは芸能界の話。対比してみると面白いかもしれない。

今聴いても新鮮な「いとしのマックス」についての記述が興味深いので少し引用。

マイナーセブンのコード使いは、ジャズが好きだった影響が大きいのだが、ドラムを叩いていたことで、この曲の持つシンコペーションも多分ジャズ的になっている。サビの5小節目のコードはマイナーシックスのコードを使ってて一般的ではない。このマイナーシックスを二小節にわたって使った歌謡曲こそ、日本には後には先にも存在しないだろう。(中略)

この曲の譜面でFm7のところをCmという単純なコードに置き換えてしまい、続いて大切なFm6をG7としている。楽譜屋さんが、とまどって単純なコードにしたのは分からなくも無いが、それではこの曲の良さが分からない。だが、日本の歌謡界のお粗末なところと諦めて、クレームをつけるつもりはなかった。

Apple Musicでシングルを順番に並べ、後半は当時TVで見て好きだった曲でプレイリストを作ってみた。