まるで短編小説のようなパッチワーク
ようやくプロデュースをクレジットされた6枚目にしてラストのアルバム。カントリー、ポップ、ソウル、フォーク、ゴスペル、ブルース、ショーチューンのモチーフを盛り込んだ曲の数々を間奏で繋いだ構成も見事で美しい。本人もまた、2ndの『The Delta Sweete』以来の手応えだったと思う。ジャケットのイラストはもちろん、インナーの直筆歌詞カードとイラストも素晴らしく、眺めながらあれこれ想像するのも楽しい。
ボビー・ジェントリーが体現していたものは、今で言うアメリカーナであり、ある意味、ブライアン・ウィルソンとヴァン・ダイク・パークスが描いた世界にも通じると思う。すでに後続のシンガー・ソングライターの活躍が出てきたにしても、時代を先駆けた存在だった。女性の地位や権利についての曲もあり、自身の音楽出版社を運営していたことも、それらの一端だったのだろう。
ラストの曲「Lookin’ In」では、同じ古いことをやるために新しい方法を考える」ことと、空港からホテルの部屋、そしてステージを往復する終わりのないサイクルにうんざりしていると告白している。この素晴らしいアルバムもまた評価は高かったがチャートに恵まれず、その後の契約更新もままならず、レコード業界から静かに離れステージ活動に移ってしまう。
それにしても、1971年というのは『What’s Going On』『Live At The Cheetah』『Sticky Fingers』『There’s A Riot Goin’ On』『Blue』『Tapestry』『Mud Slide Slim And The Blue Horizon』と名作揃いだったと、つくづく。
このアルバムを聴き終えると、ルシア・ベルリンの短編集『掃除夫のための手引き書』を読み返したくなるし、ニルソンの『Harry』(1969)を聴きたくなってくる。(未発表ながら「Simon Smith and the Amazing Dancing Bear」をカバーしている)
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