トノバン音楽家 加藤和彦とその時代 愛し愛された思い出を連れて旅立つ

常に憧れの存在
加藤和彦さんを意識しだしたのは、サディスティック・ミカ・バンドの「サイクリング・ブギ」がいたく気に入ってレコードに合わせてギターを弾いていたのが始まり。当時USでもR&Rリバイバルが始まったばかりでタイムリーだったことを思い出す。初めてミカ・バンドを観たのは地元仙台だったか、郡山で開催されたワンステップフェスティバル(74.8)だったのか、日比谷野音だったのか、もう覚えていないが、ファンキーでゴージャスで、何よりもハスッパなミカの姿に姿にぞっこんだった。どうやったらこんな音作りができるのだろうかと『黒船』を何度も聴いていた。

衝撃のフォークル、キッチュでゴージャスなサディスティック・ミカ・バンド、安井かずみさんとの共作。誰も見たことのない聴いたことのない世界を様々な形で表現してくれた存在は、個人的にサルサの洗礼後も憧れの姿だった。

この映画製作を知ったのは2023.7月のクラウドファンディングから。ようやく完成し、映画初日に観ることができた。音楽に少しでも興味がある人のは是非観て欲しい映画だ。時系列に軌道をなぞりながら、関係者の貴重な裏話や映像満載で前のめりになりながら楽しんでしまった。竹内まりあとの楽しそうにデュエットする「サイクリング・ブギ」は初めて見たし、YouTubeでも見ることができるBBCでのミカ・バンドのライブも(色々と気になる部分もありミカばかり)楽しめた。最後の名作「あの素晴らしい愛をもう一度」の2024年度版は高野寛と高田漣が中心となり素晴らしいエンディングだ。二人のアコギの絡みの時に「スリーフィンガーでも十分にグルーブがあるんだよね」なんて会話にもにんまりしてしまった。

ボレロ・カルフォルニア
映画が待ち来れなくて昨年から『エゴ』(※)と『安井がずみがいた時代』『加藤和彦ラスト・メッセージ』を交互に読みながらアルバムを聴き直してきた。ミカ・バンド解散後のマスルショールズ録音『それから先のことは…』〜ヨーロッパ三部作も勿論素晴らしいが、今は二人によってもラスト・アルバムの『ボレロ・カルフォルニア』(1991)ばかり聴いている。ニック・デ・カロがアレンジ、アル・シュミットがエンジニア。「ホテル・カルフォルニア」以降のカルフォルニアの変化みたいなのを音で表現したかった、と本人の弁。全編ラテンタッチ、中でも「愛のピエロ」は大らかで切ないサンバがとても素敵すぎる。

人は巡り合い
愛し愛され
思い出を作るピエロかも
また人は別れ
愛し愛された
思い出を連れて旅立つ

コーラスが小さくなって終わりそうなところで、もう一度聴きたくなりリピートを繰り返していてばかり。あまりにも早い死去にいまでもショックを引きずっているけど、この歌を聴いていると遠くに姿が浮かんでくるようで息苦しい。愛し愛された思い出を連れて旅立つ…って二人の未来を予感していたように思えてならない。

※『エゴ』(2013.7.23)は出版元が業界から手を引いたために長らく絶版だったが、タイトルを変更して(あの素晴しい日々 加藤和彦、「加藤和彦」を語る)再出版。オリジナルには、各章ごとに注釈(読み応えがあり)、ディスコグラフィ、72.4.3神田共立講堂でのライブCDが付属していたが、この3点が割愛されていて、本文もフォントの選択が良くなく読みにくい結果となってしまい、内容がいいだけにとても残念。写真満載で電子出版化されないだろうか。

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