1983年というと「夢の砦」と同じ年
要助さんとの出会いはサルサより前。ニュー・ミュージック・マガジンのイラストや文章。同時進行で、ブルータスに掲載された「僕を酔わせてくれるアメリカン・ハードボイルドが好きだ」(1981.7.1号)にも随分影響を受けてハヤカワポケットミステリーを古本屋で買いあさっていたものだ。チャンドラーはもちろんのこと初期のロス・マクドナルドあたりが好みだった。あのCMで使われたマーローの名台詞(結果的に意訳)を村上春樹訳では、
If I wasn’t hard, I wouldn’t be alive. If I couldn’t ever be gentle, I wouldn’t deserve to be alive.
厳しい心を持たずに生きのびてはいけない。 優しくなれないようなら、生きるに値しない。
そんなことを思い出したのは、ジャズドラマー石川晶の『Marlowe, Lonely For You フィリップ・マーロウ / 君がいないと』 を見つけたから。そのきっかけは、今まで見たことのない要助さんの描いたジャケット。インナーにはジャケット制作秘話も紹介されているので、少しだけ引用してみよう。
そこでこのアルバムのジャケット制作の裏話なのだが、まずはそのように点が辛くなるマーロウ像を描くことを止めて、ロス・アンゼルスの風景でイメージに触れてみてはどうか、というアプローチとなったわけだ。全体は、50年代のジャズのアルバムのような2色刷りモノクロームの感じを狙う。ウェスト・コーストのモダン・ジャズにはカラーのジャケットが多かった気がするが、マーロウの世界を今こちらから眺めると、もう少し沈んだ気分も欲しい。
ジャケットのモチーフとして選んでみたのは、ヴァン・ナイス・ホテルとカヘンガ・ビルだ。表紙のヴァン・ナイス・ホテルは「かわいい女』に出て来るやや落ちぶれたホテルで4丁目にあり、現在はホテル・バークレーとなっているという。裏表紙のカヘンガ・ビルは勿論マーロウの事務所のあるビルである。アイヴァー通りのこのビルは実在していなくて、モデルとなったのは同じ番地のバンク・オブ・アメリカ・ビルだという。
残念ながらプレーヤーのない部屋ではLPは聴くことができないので、ここはYouTubeで。徐々に日が暮れていく初夏の蒸し暑い部屋で、いただきものののバーボンをオン・ザ・ロックスを少しずつ口に含みながら聴いている。そういえば、小林信彦さんの傑作『夢の砦』(1983)の挿画も要助さんだけど、L.A.を60年代初頭の東京に置き換えたかのような趣に思えてならない。
コメントを残す