リトル・リチャード:アイ・アム・エヴリシング 黒人でクィア、そしてロックンロールの設計者

思わずもらい泣き
ロックンロールといえば、チャック・ベリー、ボ・ディドレイ、ファッツ・ドミノ、そしてリトル・リチャード。破壊的で波乱万丈な人生と音楽的功績を同時に見せてくれる映画だ。クィアは元々「不思議な」「風変わりな」「奇妙な」という意味だったが、彼は性的マイノリティ当事者としてポジティブな意味で使っていたのがよく分かる。今でこそ、LGBTQ+と位置づけされているが、差別と偏見と人種差別が今と比べ物にならないほど酷かった1950年代にはクィアとして生きて行くのは過酷だった。細い口ひげに女装をまとってもそのナイーヴな本質がにじみ出ていていた。

この映画の素晴らしいのは、リトル・リチャードの人生と新しい音楽が生まれる瞬間を同時に見せてくれるところにある。影響を受けたミュージシャン、ピアノスタイルの元ネタ、名曲が生まれる瞬間は見応えがあった。1997年の「アメリカン・ミュージック・アウォード」の授賞式では私も思わずもらい泣きしてしまった。王道でもあり異端でもあった自分への思いが溢れてしまったのだろう。

Tutti Frutti
Wop bop a loo bob a lop bom bom

いきなり、大声。意味わからず、どぎまぎしていると怒涛のサウンドが飛び込んでくる。1955.9.14、ニューオリンズの録音。バックはファッツ・ドミノのアール・パーマーら。ヒューイ・スミスもいたがこの曲を知らなかったためリトル・リチャード本人が弾いている。事前に用意してあった曲のレコーディング内容が良くなかったために、休憩しその合間にリトル・リチャードがこの曲を歌っているのを聞いたプロデューサーが曲を採用。元歌は、

Tutti Frutti, good booty
If it don’t fit, don’t force it
You can grease it, make it easy

という歌詞を含み、これはもろにアナルセックスのこと。これじゃまずいだろうと急遽歌詞を手直し、スタジオの時間ギリギリのテイクでOK。名曲が生まれる瞬間って偶然の重なりだと驚きっぱなしだ。そういえば、表紙にリトル・リチャードが登場しているディランの名著『The Philosophy of Modern Song(ソングの哲学=個人的にはこの邦題は好きではない)で、この曲について、

リトル・リチャードは両義性を演じる大家。fruitは男性同性愛愛好者。これにtutti(音楽用語で全部=合奏)をつければ「みんなホモだち」の意味になる、と書いている。ああ、これで手直しされた元歌詞と繋がるし、登場する女性は(何をすればいいかわかっているスー&俺の悦しかたを知っているデイジー)女装のクィーンだということも。

ということで、映画を見る前、見た後スペシャルティー録音の初期3枚をループしっぱなしだ。

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