ラスト・トリオの短い幸せの時
とかくビル・エヴァンスはポール・モチアン(ds)、スコット・ラファエロ(b)とのファースト・トリオ=リヴァーサイド4部作だけで語られ、リリカルで繊細と一般的には評されてしまっている。確かに、この4作は今聴いても、その後のトリオまたはピアニストに多大な影響力を持ち得たと思う。長い間私もそのように感じていたが、『The Boll Evans Album』(1971)『Yo Must Believe In Spring』(1977)などを経て、ビル・エヴァンスのアレンジャーとしての素晴らしさを知り、同時に左手のコードワークにハッとさせられていた。
本当に素晴らしいトリオだ。今ままで一番とは言わないまでも、少なくともファースト・トリオに匹敵する。…何かよくないことがあっても、このトリオのおかげでそこから抜け出せる。相性が良くなかったら、私の調子は悪化していたかもしれない…
こう語ったトリオは、マーク・ジョンソン(b)ジョー・ラバーベラ(ds)。ファースト〜が、三人が会話をしながら(時には激しく対立しながら)進めていくのに対して、ラスト〜は融合しながら溶け込んでいくように進めていくように感じる。これは、ビル・エヴァンスの健康状態(多くは薬物依存のため)も影響しているのだろう。最後のトリオの二年間をジョー・ラバーベラを克明に綴ったのがこの本だ。自身の音楽生活の始まりからビル・エヴァンスとの出会い、そしてを共に過ごした最後の二年間までを静かに語られる。本人の回想に加えて、多くのミュージシャン、関係者のインタビューも盛り込まれて立体的で読み応えがある。
病室よりもピアノを選び続けたエヴァンスの最後にそばにいて看取ったのも作者のジョー・ラバーベラ。胸が詰まって読み進めずにいたほど生々しい。2〜3日後、エヴァンスが生前レコーディングを許可したパリでのコンサート(1979.11.26)を聴きながら、もう一度初めから読み返していた。巻末の1979.1.17から始まり1980.9.10までのツアー・スケジュール表も貴重な資料だ。亡き兄に捧げたエヴァンス最後のスタジオ録音はラスト・トリオ参加のクインテット。様々な形で出回ったキーストン・コーナーのライブ(1980.8.31〜9.8)は亡くなる1週間前の姿。
最後にエヴァンスの言葉を…私の外側はボロボロかもしれないが、内側はきれいなままだ…
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